【サポルの冒険5】国境の老人

FX大全外伝,サポルの冒険


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あなたは、今までに何人の「先生」を
追いかけてきましたか?

SNSで見つけた勝ち続けているらしい人。
高額な塾を開いている有名なトレーダー
動画の中で自信たっぷりに語る講師

「この人についていけば間違いない」そう思って
お金を払って
時間を使って信じて
けれど気づけばまた別の人を
探している自分がいる。

私たちは「答えを持っている人」を求めます。
自分の中に答えがないから
誰かに答えを持っていてほしくなる。

これはサポルが人生で初めて
「何も持っていない人」と出会った夜の話です。

そして何も持っていないはずのその人が
なぜサポルの目には誰よりも豊かに見えたのか。

そんな話です。

焚き火へ

サポルは、膝をついたまま、
平原の遠くを見ていた。
小さな焚き火がひとつだけ揺れていた。

骸の海の中でその火だけが生きていた。
サポルは、ゆっくりと立ち上がろうとした。
膝が震えた。背中の荷物は、
もうほとんど地面に落ちていた。

サポルは、それを拾わなかった。
地図も、羅針盤も、剣も、聖杯のかけらも、
そのまま平原に置いてサポルは歩き始めた。

焚き火へ

火に向かって歩いた。
歩くたびに足元で道具が鳴った。
割れた羅針盤を踏んだ。
破れた地図を踏んだ。

骸の指先に靴がかすかに触れた。
それでもサポルは振り返らなかった。
ただ火だけを見ていた。
火に近づくほど不思議と、
心が静かになっていった。

これまで何かを欲しがるたびに、
胸が熱くなっていた。
けれど今、胸の中には何の熱もなかった。

ただ、火を見たかった。
焚き火のそばに、ひとりの老人が座っていた。

何も持っていない男
サポルは、火の手前で立ち止まった。
老人は、サポルを見なかった。
火を見ていた。

サポルは、火の向こうに立つその姿を見つめた。
老人は、何も持っていなかった。

地図も、羅針盤も、剣も、
聖杯のかけらも、何ひとつ。

身に着けているのは、
すり切れた布が一枚だけだった。
足元には、小さな水筒がひとつ。
それ以外には何もなかった。

「商人」とはまるで違った。
商人は、たくさんの道具を両手に広げていた。
たくさんの宣伝文句を言っていた。

たくさんの笑顔をサポルに向けていた。
この老人には、そのどれもがなかった。
ただ、火を見ていた。

サポルは最初戸惑った。
「この人は誰だろう」
「何を売っているのだろう」
「何を教えてくれるのだろう」

そう考えてサポルは、自分の中のその問いに気づいた。
自分はまだ「外から何かをもらおうとしている」のだと

骸の海を見たばかりなのに
まだ欲しがっている。

サポルは目を伏せた。
「座ってもいいですか?」
サポルは、小さな声で訊いた。

老人は、火を見たままわずかに頷いた。
サポルは、火の手前に座った。
地面は冷たかった。
澄んだ目
しばらく何もなかった。

火が弾けた。風が吹いた。
サポルは、老人の顔をそっと覗いた。

老人は、痩せていた。
手も首も骨が浮いていた。
皮膚は岩のように乾いていた。
年齢はわからなかった。
けれど長く生きてきた人なのだろうと思った。

服はすり切れていた。
靴は片方がほとんど破けていた。
誰がどう見ても豊かには見えなかった。
だが、その目だけが澄んでいた。

サポルは息を呑んだ。
それはこれまで出会ったどの商人の目とも違った。

商人の目はいつも何かを売ろうとしていた。
輝いていたけれど
その輝きは、サポルの「欲しい」を映していただけだった。

この老人の目は、何も映そうとしていなかった。
ただ、そこにある。「火の光だけが」

その奥で静かに揺れていた。
サポルは、その目を見て初めて思った。
何も持っていないということは
こんなにも静かなことなのかと…

問わない人

サポルは何か話したかった。
これまでのことを全部話したかった。

最初の地図のこと
商人のこと
重い荷物のこと
平原で見た、自分と同じ顔の骸のこと

けれど口は開かなかった。
老人は、何も訊かなかった。

「お前は、誰だ」とも訊かなかった。
「どこから来た」とも訊かなかった。
「何を探している」とも訊かなかった。

ただ、火を見ていた。
サポルはその沈黙が最初怖かった。

何か話さなければと思った。
自分を説明しなければと思った。
けれど老人は、サポルが黙っていることを責めなかった。

サポルが何も持っていないことを笑わなかった。
サポルがここに来た理由を訊かなかった。

ただ隣にいた。
そのうちサポルは気づいた。

これまで出会ったすべての人が、
サポルに「何か」を求めていた。

商人は、金を求めた。
村の人は、感心を求めた。
地図は、信仰を求めた。

求められるたびに
サポルは応えようとした。
期待された顔をした。
期待された言葉を言った。
期待された方角へ歩いた。

この老人は何も求めていなかった。
サポルから何も取らなかった。
何も与えようともしなかった。
ただ、火を共に見ていた。

サポルの目から涙が一滴落ちた。
地面に落ちてすぐに乾いた。
老人はそれを見なかった。

夜の長さ

夜は長かった。
火が小さくなった。
老人は立ち上がり近くに転がっていた、
骸の指先の枯れ枝を火にくべた。

そして、また座った。
サポルは、その動きを見ていた。
老人は、骸を踏まなかった。
骸の指先から丁寧に枝だけを外していた。

サポルは、自分がここに来るまでに
何を踏んできたのかを思った。

骸の指。割れた羅針盤。破れた地図。
自分はすべてを踏みつけてここまで来た。
老人は踏まなかった。

サポルは、火を見たまま口を開いた。
「あなたは、何を持っているのですか」

声は小さかった。
老人は、しばらく答えなかった。
風が吹いた。火がゆれた。

老人は、ようやく口を開いた。
「持っていない」
それだけだった。
サポルは頷いた。

そして、もう訊かなかった。
老人と共に火を見ていた。
骸の平原にふたりの影が揺れていた。

教訓の橋渡し

私たちは「何かを持っている人」を
すごい人だと思います。

道具を持っている人
肩書を持っている人
フォロワーを持っている人
実績を持っている人。

そして、そういう人から
何かを学ぼうとします。
何かを、買おうとします。

けれど、本当に見るべき場所は、
その人が「何を持っているか」ではなく
その人の「目」かもしれません。

何かを売りたい人の目は、こちらの欲望を映します。
だから、あなたの「欲しい」が
その目の中で輝いて見えるのです。
何も売りたくない人の目はただ静かです。

映そうとしないから何も映らない。
サポルが出会った老人は、
何も持っていませんでした。

地図も羅針盤も剣もなく
ただすり切れた布とひとつの水筒だけ。

それでもサポルの目には、その老人が誰よりも豊かに見えた。
なぜならその目が澄んでいたから。

トレードの世界でも同じことが起きています。
派手な実績を語る人ほど

こちらの「勝ちたい」を上手に映します。

静かな目をしている人はなかなか見つかりません。
けれどもし見つけたなら
その人の言葉は、少なくともあなたを何かに駆り立てない。
その違いを感じ取れる目を持ちたいものです。

エピローグ

夜が更けた。
火はまだ燃えていた。
サポルは、火の前で目を閉じた。

何も持っていないということが
これほど温かいものだとは知らなかった。
平原の風がサポルの髪を揺らした。
骸たちは、もう見えなかった。

老人は、火を見ていた。
サポルも、火を見ていた。
遠くで鐘がひとつだけ鳴った。


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